先輩、お久しぶりです

的場さんは腕時計を確認すると、一緒にいた人を連れて急いで階段から降りて行った。
私は固まったまま黙っていると、横からヒョイと資料を持ち上げられ咄嗟に見上げた。


「――え!?あ、自分で持ちます」

「いいから」


そう言って昂良先輩は私が持っていた資料を片手に軽く持ち、着いたエレベーターに乗り込んだ。


「乗らないの?」

「の……乗ります」


気まずい。
ずっと連絡を無視してたから余計に気まずい。
おまけに見るからに不機嫌そう。


「今日の定時終わりに話がある。ロビーで待ってるから」

「今日、ですか?」


隣に立つ先輩を見上げると、言葉は発せず視線だけで返事をされた。


これは、かなり怒ってらっしゃる様子……。
そりゃ何日も無視されれば、そんな態度になってもおかしくはない。それもこれも私がそうさせたのだから。


「……分かりました」


有無をも言わせない先輩の態度にそう返事をすると、いつのまにかエレベーターが秘書室のフロアに着いていた。
そして黙ったまま資料を手渡され、また先輩はエレベーターに乗って降りて行ってしまった。


まさか、こんな風に返事を急かされるとは思ってなかっただけに、心の準備は全くと言っていいほど出来ていない。
近々……と考えていても、待たされる方は焦れったくて仕方がないんだろう。


さっきは的場さんにはっきり断ろうと強気で口を開いたくせに、先輩へは返事を返すだけでこれだけ引き延ばしてウジウジしてしまっている。


そしてトラウマで引っかかってるとはいえ、悩めば悩むほど本当にそれだけが原因なのかと、分からなくなってくる。

私はどうしたいのだろうか……。

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