恋の♡魔法のチョコレート
「何それ?本当なの?」

ハの字眉で私を見てるのは福岡咲希(ふくおかさき)、前の席に振り返るように座って首を傾げてる。

「本当だよ、そう聞いたもん!」

「えー、なんか嘘くさくない?魔法のチョコレートなんて名前からして怪しいよ」

全く信じてなさそうな咲希はくすくすと笑ってる。
バカにされてるわけじゃないけど、ちっとも興味がないのもよくわかる。

「中学からずっと付き合ってる彼氏のいる咲希には無縁の話だからだよ」

いいよね、彼氏持ちは。こんな話で必死になることもないんだから。

「そうかなぁ、詩乃が言ってるだけじゃなくて?本当にみんな欲しいと思ってるの?」

「思ってるよ!ほら、耳澄ませてみて!」

一度静かにしてみてと、教室の声に傾けるように促した。

そうすれば聞こえるはずだから、恋する女の子たちのひそひそ話が。

「……。」

「………。」

「…。」

「…ね?」

「小鳩無愛想過ぎて無理ってひそひそされてたよ」

「そーなのっ!!!」

ドンッと思わず机を叩いちゃった。
廊下での出来事を思い出したら余計に力が入ってしまった。

「小鳩結都攻略難しすぎる…!!!」

1年2組小鳩結都、同じ1年なのに話しかける時はいつも敬語でそれがやたら威圧感を醸し出してる。

スラっと高い背も威圧感だし、人に関心がなさそうな声も威圧感だし、いつでも人を見下してるような目つきも威圧感で…とにかく話が通じない。

「…でも、小鳩結都にしか作れないチョコレートなんだよ」

「私も小鳩くんとは話したことないけど、そんなに効果絶大なの?小鳩くんが作るチョコレートって」

「私も噂でしか聞いたことないけど」

「噂かいーっ」

なんとなく耳に入って来た。

告白する時に小鳩結都が作ったチョコレートを相手に渡して告白すると絶対上手くいくって…

そんなの聞いたら欲しいじゃん。

恋が叶う魔法みたいなチョコレートがあるって聞いたら…

恋する女の子たちは喉から手が出るほど欲しいよ。

「どうにか作ってもらえないかなぁ…」

「それで夏休み明け早々土下座するのも詩乃くらいだよ」

「何にも響かなかったけどね」

夏休み明けの9月はまだ暑くて、全然チョコレートって気分じゃないけど今の私には何より欲しくてたまらないんだ。
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