そっと、抱きしめたい。

「うん。秀ちゃんのおかげ!」



渚がニッコリと笑った。

それは凛とした美しい顔が、優しくふんわりと花を(まと)うみたいな笑顔だった。

思わずドキドキする心臓。

そんなオレを悟られたくなくて、
「良かった」
と、オレも笑ってみる。




渚は昨日、仕事で傷つくことがあった。

そんな時にそばに居られて、良かった。

頼ってもらえたことが、嬉しかった。



……ただ話を聞いていただけだとしても。






身支度が済んで、オレ達は部屋を出た。

マンションのエレベーターの中で、
「何時頃に帰って来られる?」
と、渚が腕時計を見た。



「19時半……くらいかな?」

「分かった。それくらいにごはん、食べられるようにする!」

「期待しています」



エレベーターが一階に着いた。



「じゃあ、今夜ね」
と、オレは歩き出す。



「行ってらっしゃい」
と、渚が手を振ってくれた。




嬉しくて、立ち止まって振り返り、
「行ってきます!」
と、元気よくオレも手を振った。





< 3 / 11 >

この作品をシェア

pagetop