そっと、抱きしめたい。
「うん。秀ちゃんのおかげ!」
渚がニッコリと笑った。
それは凛とした美しい顔が、優しくふんわりと花を纏うみたいな笑顔だった。
思わずドキドキする心臓。
そんなオレを悟られたくなくて、
「良かった」
と、オレも笑ってみる。
渚は昨日、仕事で傷つくことがあった。
そんな時にそばに居られて、良かった。
頼ってもらえたことが、嬉しかった。
……ただ話を聞いていただけだとしても。
身支度が済んで、オレ達は部屋を出た。
マンションのエレベーターの中で、
「何時頃に帰って来られる?」
と、渚が腕時計を見た。
「19時半……くらいかな?」
「分かった。それくらいにごはん、食べられるようにする!」
「期待しています」
エレベーターが一階に着いた。
「じゃあ、今夜ね」
と、オレは歩き出す。
「行ってらっしゃい」
と、渚が手を振ってくれた。
嬉しくて、立ち止まって振り返り、
「行ってきます!」
と、元気よくオレも手を振った。