筒抜け騎士様は今日も元気に業務(ストーカー)に励みます
白雨の頃に

 普段よりも地味なドレスに身を包み、深く帽子を被ったアメリアは建ち並ぶ店の前を足早に通り過ぎていく。その隣にいつもあるはずの姿はない。


 『一時間で帰ってくること、いいわね?』


 諦めたようにため息を吐いて、渋々そう言っていた母親の姿が脳裏を過ぎる。約束を破ったらどれだけ叱られるか分からないと、歩くスピードはまた少し速くなった。

 バケモノと呼ばれる存在を忌み嫌わず、将来恥をかかないようにと厳しくも愛情を持って育てられたことをアメリアはよく理解していた。そんな両親には感謝してもしきれないし、これ以上の迷惑はかけられない。ましてや今日は我儘を言って一人で街まで出てきたのだ。自分を信頼してくれた母親を裏切ることになってしまう。

 明日は幼少の頃からずっとお世話になってきたアマンダの誕生日。彼女の誕生日を祝いたいと相談したら「今日だけ特別よ」と許可してくれた。きっと今頃、母親がアマンダの気を引いてくれていることだろう。

 昔の自分なら一人で街に行くなんて周囲の目が怖くてできなかったと思う。でもエマと一緒に街に出掛けるようになって、こんな私でも大丈夫かもしれないと思えるようになった。

 目当てのお店はもうすぐそこ。
 何度かエマと一緒に来たことがあるから店主とも顔馴染みだ。このお店のハンドクリームは香りも効能もいいと評判だった。仕事の影響で手が荒れがちなアマンダのため、アメリアは随分と前からここでプレゼントを買おうと決めていた。


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