目は口ほどに物を言うと言いますが 〜筒抜け騎士様は今日も元気に業務(ストーカー)に励みます〜

 ――カランカラン。

 背後からベルの音がしてアメリアはハッと我に返った。昔のことを思い出すと、一気に心臓がぎゅうっと苦しくなる。

 ふうと大きく息を吐いたアメリアは自分が立ち止まっているのが店の入口付近だということに気づき、これ以上他のお客さんの邪魔になってはいけないと足早にその場から去ろうとした。悪意を持った視線の中でプレゼントを選べるほど、強くはなかったから。


 「……っ、」


 そうして後ろを振り向いた瞬間、アメリアの顔が泣きそうに歪む。ベール越しに合った目は何を考えているのか分からない。

 あの日から癒えない傷がまたじくじくと痛み始めた気がして、踏み出そうとした足が止まってしまった。


 「これはこれは、レオン殿下じゃありませんか」


 珍しい来客の正体に気づいた店主が笑顔を浮かべながらも慌ててやってくる。どうか人違いであってほしいという願いは、あっという間に砕け散ってしまった。

 こうして直接お会いするのはあの日以来。彼は幼い頃の面影を残しながらも、高貴に成長していた。


 (私だけがあの頃に囚われたままで、何一つ変わっていないのだわ)

 元婚約者とは思えないほど、釣り合っていない自分自身。自然とそう思ってしまうことすら惨めで、彼の前に立っていることが恥ずかしくなった。

 アメリアは唇をぎゅっと噛み締めると、顔を伏せるようにして足早に彼の隣を通り過ぎた。無礼だと罵る声があったとしても、この足を止めることはできなかった。

 一心不乱に行くあてもなく歩き続ける彼女は知らない。レオンが自慢のプラチナブロンドの髪をぐしゃりと掴み、誰にも聞こえないように「くそ……」と呟いたことを。


 どこに向かっているのか、自分でも分からない。だけど忌々しい過去がいつまでも追いかけてくるようで、アメリアは足を止めることができなかった。

 できるだけ人気のない方へ、建ち並ぶ店の前をいくつも通り過ぎ、気がつけば閑散としている街の外れまで来てしまった。

 ようやく足を止めたアメリアはきゅっと唇を噛み締める。そうしないと、泣いてしまいそうだった。

 ――ポツリ。
 自己嫌悪のため息を吐き出していた彼女の頬に空から雫が落ちてくる。

 ぽつぽつと降り出した雨は、次第に勢いを増していく。傘を持っていないアメリアは、寂れた古本屋を見つけて慌てて軒先に駆け込んだ。

 どうやら今日は休業日らしく、「CLOSE」と書かれた張り紙が入口のドアに貼られている。

 気がつけば、さっきまで疎らにあった人影はきれいさっぱりなくなっていた。

 ひとりだと自覚した途端、心臓がぎゅうと痛んだ。ザーザーと降りしきる雨粒のせいか、アメリア自身の気持ちの問題か、どよんと重たい空気が立ち込める。

 何もかも上手くいかない。
 そういう星の元に生まれてきたと、受け入れてしまった方が気が楽になりそうだった。

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