婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした

13.心の声がダダ洩れじゃない?

 ヴィンセント様が去った後も、相変わらず会場内は私達の話題で持ちきりだった。

 わざと聞こえるように言っているのだろうか?
 その真意は分からないけれど、ザワザワと騒がしさは増しすばかり。
 ここに一人で居ても仕方が無いので、私も外に出ようと歩き出した時、

「ちょっと、あなた」

 一人の令嬢が、心配する様に眉をひそめて声を掛けてきた。

「ねえねえ、本当にいいの? このままだと本当にあの人と結婚させられてしまうわよ? 今からでも考え直した方がいいんじゃないのかしら?」

 まるで「あなたの為を思って言っているのよ」とでも言いたげな言葉。だけど、ひねくれ者の私には「私はヴィンセント様の婚約者にはなりたくないけど、あなたが公爵令息と結婚するのは気に入らないの。だからやめときなさい」と聞こえた。

 そんな彼女に、私はニッコリと心からの笑みを浮かべてみせた。

「私は別に構いません。ヴィンセント様との婚約は私が望んでした事ですから」
「あ……あら、そうなの? 変わった趣味なのね……。それなら私も何も言う事はありませんわ。どうぞお幸せに」

 目元をピクつかせた笑みを浮かべてそう言うと、彼女は知り合いと思われる二人組の令嬢の元へと向かった。顔を見合わせるなりヒソヒソと何やら話し始める。
 その内容は聞きたくなくても、残念ながら私の耳には届いてしまう。

「なにあれ。せっかくあの子の為を思って言ってあげたのに……」
「ふふっ。強情な事を言っているけれど、やっぱりお金がいるのでしょうね」
「そうよ。そうに決まってるわ。でないとあんな人と結婚しようなんて思わないわよね」
「そういえば……去年も大雨の影響で北の辺境は大変な被害を被ったと聞きましたわ」
「まぁ、それは可哀想ね……。それでお金が必要になったという事かしら?」
「聞いた話によると、あの時も公爵様から多大な支援を受けたとか……」

 あら、さっき『何も言う事はありませんわ』とか言ったくせに、物凄く言いたい事があるようね。
 あまりにも的外れな話に馬鹿らしくなるけれど、いちいち訂正するのも面倒くさい。
 かと言って、聞いていてあまり気持ちの良いものでもない。

 やはりさっさとここから出ようと、会場の出口へと足を速める。
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