僕の素顔を君に捧ぐ
指示された仕事をこなすうちにあっという間に如月の帰宅時間が迫ってきた。

減量するため、カロリーは300キロカロリーに抑えるように指示されていたので、鳥のささ身やブロッコリー、ケールなどを使った具沢山のサラダを用意した。低カロリーでも満足感を得られるよう、ドレッシングはクルミ入りのもの、オレンジの果肉入りのもの、チーズのコクのある風味がきいたものの三種類を準備した。

玄関のドアが開いて、ワンダーが飛び跳ねて如月に駆け寄った。

「お帰りなさいませ、如月さま」

優花は如月のコートを受け取った。如月は顔も見ずに言った。

「部屋が寒いぞ。それになんだこの湿度は。58パーセントにするように」

声にとげがある。

優花は慌てて加湿器のスイッチを入れ、湿度計でチェックする。



如月はそれきり無言になり、シャワーを終えるとテーブルに付いた。

「今日はもういい。帰ってくれ」

如月はうつむいて優花の顔も見ずに声を絞り出す。朝の様子とは打って変わっていた。
怒りと悲しみが入り混じったような重苦しい空気が部屋を満たした。

「あの、なにか至らない点がありましたか…」

「うるさい…帰れと言ってるんだ」

如月はさらに深く頭をテーブルに近づけ頭を抱えて低い声で言った。

「…わかりました。では、失礼します」

如月が醸し出す冷え切った暗いものに耐えられなくなって、優花は荷物をまとめて逃げ出すように部屋を出た。胸がドキドキする。

(私、なにをやらかしたんだろう)
< 14 / 34 >

この作品をシェア

pagetop