僕の素顔を君に捧ぐ

リビングはまるで大きな水槽がある水族館のように、壁一面が窓になっていて、ガラス窓の向こうには魚の泳ぐ海の世界のかわりに冬の灰色の空が広がっていた。

東京の真ん中に位置するにもかかわらず、目下には赤や黄に色づいた木々が生い茂っている。


リビングの大きなソファの手前に男性が立っていた。優花を出迎えた男性よりもぐっと年上だが、背も高く、引けを取らない凛々しい顔立ちをしている。

「百瀬さんだね。早くから来てもらって、悪かったね」

「いえ、このくらいの時間は私たちにとって普通に勤務時間ですから」

気安い雰囲気で話してくれるその男性と、名刺を交換する。

<ビッグプロジェクトエージェンシー 副社長 袴田宗吾>

大川社長とは同級生だと言う袴田宗吾は、彼女と同様フランクな雰囲気だった。

高級そうなスーツに身を包み、手もとにはゴールドの腕時計。遊び慣れた雰囲気の日焼けした肌に、微笑んだ時の白い歯が印象的だった。

優花は初めに出迎えてくれた男性にも名刺を渡し、全員がソファに腰かけた。彼は窓の方に視線を向けたままだった。

「この男、この部屋に住む、俳優の、如月琉星」

袴田が、その端正な横顔を示して言った。

テレビに疎い優花は、確かに見覚えがある顔だとは思ったが、まさか芸能人と自分がじかに話すことになろうとは、夢にも思っていなかった。

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