あの頃からあなただけが好きでした
噂は市内の平民の間だけにとどまらず、いつかは商会の主な取引相手である貴族階級にも広まっていくだろう。
マリオンの父親のオーブリー子爵が代行官補佐を勤めているこの地の領主で、王都のタウンハウスに住んでいるコーカス伯爵の耳に入るのも、時間の問題だ、と親父は頭を抱えた。
「お前の卒業まで、持ちこたえられればいいが……」
親父は余力のある内に、コーカスでの商いをたたむ準備を半年かけてする、と言い出した。
ここに最後までしがみついていたら、従業員に
退職金も渡せない。
新しくやり直す資金も失ってしまう。
そうなる前には撤退しよう、と言う。
「新しくやり直す、その為の撤退だ……
この事は絶対に外に。
友達にも漏らすな」
一番悔しいのは親父だ、当たり前の事だ。
店を畳むことを……誰にも、悟られてはいけない。
わかってる、俺だってわかっている。
だけど……マリオンにだけ。
マリオンにだけは、伝えたい。
その気持ちを押さえることは無理だった。