実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜

50.ゼルリダ様のお茶会(後編)

 笑みが飛ぶ。世辞が飛ぶ。
 当たり障りないようでいて、実際はかなり際どい会話が繰り広げられている。薄氷の上に成り立っている平和とでもいおうか。あるものは回り道をして回避し、またある者は敢えて踏み抜き、己自身のスタンスを示す。

 傍から見れば、どちらも笑顔。好意を抱き合っている者同士に見える。
 だけどその実態は、互いを牽制し合い、ともすれば敵意さえ抱いている。貴族の社交というものは、危ういバランスの上に成り立っているのだと、身を以て実感した。


 ゼルリダ様はさすが、王太子妃でいらっしゃった。お茶会の参加者皆に個別に声を掛け、服装や趣味、特技や家族について褒めまくり、会話の相手を気分よくさせている。それが、相手のことを何も知らなくてもできるような当たり障りのない内容じゃなく、以前ふと交わした会話の内容だったり、他の人から漏れ聞いたという話だったりするものだから、わたしは感心してしまった。
 多分だけど、今日ここに来ている参加者だけじゃなくて、かなり沢山の貴族の情報が頭の中にインプットされてるんだと思う。やっぱり、妃が自分を気に掛けてくれているというだけで、大抵の人は嬉しいもんね。わたしも頑張らなきゃだ。

 どうやら、ゼルリダ様がわたしやおじいちゃんにする棘のある物言いは、身内限定のものらしい。表情や言動ってこうやって使い分けるんだなぁと、とても参考になる。元が社交的なシルビアとは一味違う大人ならではの対応、社交術だと感じた。


「――――そういえば、オパール様の領地では、ここ最近麦が豊作でいらっしゃるとか」


 そう口にしたのは、王都の近くに領地を持つ侯爵夫人だった。同じく領地持ちのご婦人を相手に、脈略もなくそんな話題を切り出す。


「ええ。おかげさまで天候に恵まれ、良い麦が育っております」


 日に焼けた肌、恰幅の良いご婦人は、そう言ってニコリと微笑む。
 話を振った方の夫人は、相手の返答が不満だったのだろうか。ほんの少しだけ眉毛を動かしつつ、ゆっくりと周囲を見回した。


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