実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
(ランハートが王位を継承したくない理由がよく分かるわ)


 王様になりたい――――そんなことを思える人間は、めちゃくちゃ自己顕示欲が強いか、どうしても成し遂げたいことがある人だけだ。
 常にたくさんの人から見張られて、何の自由も無くて、重圧とか責任とか、税金で暮らしている負い目とか、色んなことを感じていかなきゃいけないんだもの。わたしだって、もしも選択肢を与えてもらえるなら、間違いなく『否』と答えている。王様じゃなくて配偶者の地位ぐらいが一番丁度良い。


(それなのに、バルデマーからは『自分自身がトップに立ちたい』って気概を感じるんだよね)


 いつも上品で王子様みたいな出で立ちなのに、彼の瞳からはハッキリと野心が窺える。そりゃあ、王子様はいずれ『王様』になるべき存在なんだけど、バルデマーの場合は、王様になる所はあんまり想像できない。似合わないというか、しっくりこないというか――――それでも、彼はわたしの配偶者となることで、そうなることを望んでいるのだ。


(一体、何が彼をそんな風に駆りたてるんだろう)


 気にならないと言ったら嘘になる。


「――――夜会はお気に召しませんでしたか、姫様?」


 そんな言葉と共に、手に持っていたグラスがフイと宙に浮く。視線を上へ向ければ、困ったような笑顔が目に飛び込む。ランハートだった。


「ううん、そんなことない。ちゃんと楽しんでるわ」


 答えれば、ランハートは令嬢たちに目配せをしつつ、わたしをその場からそっと連れ出す。わたしは思わず小さく笑った。


「そうですか? 残念ながら、楽しそうな表情には見えませんでしたけどね。
――――女性より、男性と一緒に居た方が楽しかったりします?」


 そう言ってランハートは背後に控える男性たちをチラリと見遣る。城では見ない顔ぶればかりだけど、わたしより少し年上の、陽気そうな令息たちがこちらを見て微笑んだ。


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