花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
デッキに出ると想像していたよりも風が強く肌寒かったが、それに気づいた真宮くんはジャケットを脱ぎ私の肩にかけてくれた。

 あ。また、この香り。

肩にかけられたジャケットから、爽やかなシトラスの香りが漂ってくる。

 この香り落ち着く…。

海の真ん中にいるのでオープンデッキからは星がとても綺麗に見えた。真宮くんは頭の良さを発揮し、星座やそれにまつわる神話などを聞かせてくれたのであっという間に時間が過ぎていった。

「そろそろ戻らないとな。」

と真宮が腕時計をチラッと見た。

 あれ?真宮くんの腕時計、私のと同じブランドだったんだ…。やっぱり、このブランドは人気があるのね…。そういえば、咲良さんも限定販売のモデルって知ってたもんなぁ…。

「ん?どうした?」

「腕時計、同じブランドなんだなぁーって思っただけ。」

「あ、この時計か…。」

と、言いながら真宮くんはさりげなく腕時計を袖に隠した。

ちょうどその時、クラッチバッグの中でスマホが震え出したので、カバンから取り出すと咲良さんからの着信だった。

「もしもし?いまオープンデッキにいるよ。えっ?あ、うん、分かった。そっちに戻るね。」

と言って通話を終了した。

「咲良から?」

「うん、そう。閉会の挨拶が始まるから戻ってこいって。」

「そうか、なら行こう。」

船内に入ると真宮くんから借りていてジャケットを返し、みんながいるフロアへ戻った。
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