惑溺幼馴染の拗らせた求愛

「好きな部屋を使ってくれ」

 槙島スカイタワーの最上階である三十階に連れてこられた麻里は困惑した。こんなところに住んでいるなんて聞いてない。
 ワンフロア占有の居室には遠くまで見渡せる大きな出窓のあるリビング、立派なキッチンに加え、ゲストルームが3つもあった。確かに部屋は余っている。
 ゲストルームに備えつけられていたシャワーを借りて、寝巻きに着替えて布団に潜る。
 目を瞑ってはみたけれど、神経が昂り眠れそうもない。
 何か温かいものでも飲もうかと、長い廊下の先にあるキッチンに向かう。
 誰もいないはずのキッチンに人影が見えて、思わず身構える。物音の正体が飲み物を取りにきた明音だとわかるとホッとした。

「どうした?」
「何か眠れなくて」
「まあ、あんな事があれば当然か……」

 自分の家から知らない男が出てきて金銭を奪われるなんて、一度だって経験したくない。

「よし、こっちに来い」

 ついてくるよう促されて辿り着いたのは明音の書斎兼寝室だった。

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