惑溺幼馴染の拗らせた求愛


 最低最悪の出来事から一夜が明けた。
 朝一番にガラス屋に電話をかけると、直ぐに対応してもらえることになった。午後には作業員がやってきて、壊された縁側の窓があっという間に元通りになった。

『ガラスも直ったので、今日は家に戻ります』
 
 朝からどこかに出かけて行った明音にはそうメッセージを送った。
 昨夜は栞里と明音の勢いに負けてしまったが、今夜こそは家に戻るつもりだった。明音の部屋で一晩過ごしてみてわかったが、あんな豪華な部屋にいたらちっとも落ち着けない。古くても我が家が恋しい。
 返信は一向になかった。ところが、夕方になると荷物の入ったボストンバッグを抱えた明音が家までやって来た。

「しばらく世話になる」
「本気だったんだ……」
「当たり前だ。麻里こそ強情だな」

 強情と言われても麻里は言い返すことが出来なかった。メッセージは強気でも、やはりひとりきりでは心細かったのだ。明音は麻里の本音と建前すべてをお見通しだったのかもしれない。
 明音には長らく使っていなかった両親の部屋を使ってもらうことにした。窓を開け部屋の空気を入れ替える。冬場特有の凛とした冷たい風が澱んだ空気を攫っていく。
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