惑溺幼馴染の拗らせた求愛

 麻里の尽力?のおかげかはわからないが、明音には次第に笑顔が増え友達も出来た。小学校を卒業すると、二人の道は一度別れた。明音は中高一貫の有名私立学校に進学し、麻里は地元の公立中学校に進んだ。
 長らく別々の道を歩んでいた二人が再会したのは、麻里の父の葬儀の時だった。あの時、麻里は精進落としの席から離れ、葬儀会場の外でひとり物思いに耽っていた。

「麻里」
「明音?……だよね?来てくれたんだ……」

 麻里は小学校卒業以来十年ぶりに再会した明音に力なく笑いかけた。
 突然の訃報だった。麻里が店のレシピを全て覚えた矢先のことだった。
 ハンドル操作を誤ったせいで父の運転する車は電柱に激突した。それからまもなく搬送された病院で息を引き取った。事故の目撃者によると子供が道路に飛び出してきたのを避けようとしたそうだ。
 麻里は行き場のない悔しさと悲しみを昇華できないでいた。
 
「俺さ、親父さんの作ったコロッケがこの世で一番好きだった」
「ははっ。なにそれ……」

 槙島さんちのお坊ちゃんならもっと良い物を食べていそうだが、明音が嘘をつくとも思えない。明音はありきたりな慰めの言葉をかけるでもなく、ただ黙って麻里の傍にいてくれた。困ったことがあったら相談するようにと、連絡先も交換した。
 それ以来、何かと連絡を寄越してくるようになった。
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