星と月と恋の話
「だ、駄目なんですか…?」

「そう、駄目よ。これはパンドラの箱よ」

「そ、そうですか…。そう言われると余計気になるんですけど…」

そう。

でも駄目よ。

とても、見せられる代物じゃないんだから。

「じゃあ、その…どうしたら良いですか?僕…後ろ向いて食べたら良いですか?」

「別に、前を向いて食べたら良いじゃない」

そんな後ろ向きにならなくても。

もっと前向きに生きて良いのよ。

「でも、正面を向いてたら、どうしても星野さんのお弁当が…目に入るんですが…」

「…」

「…あっ、えぇと…出来るだけ見ないように努力します…」

…出来るだけってことは、やっぱりちょっとは見るんじゃないの。

分かった、分かったわよ。

観念すれば良いんでしょ?

「分かった…見せるわよ…」

「い、良いんですか?」

「逃げ回ってもしょうがないもの…。言っておくけど、笑わないでね」

結月君に「ぷっ、クスクス」なんて笑われたら、私は心が折れるわ。

「もし笑ったら、おへそに箸突っ込んでやるから。絶対笑わないって約束して」

「…想像したら意外と痛かったので、絶対笑いません」

宜しい。

じゃ、見せてあげるわ。

私は巾着袋を開けて、お弁当箱を取り出した。

うぅ、この時点でもう恥ずかしい。

しかし、ここまで来たら引き返せない。

南無三とばかりに、私はお弁当箱の蓋を開けた。

何かの奇跡が起こって、お弁当の中身が美しく心機一転…!

なんてことは勿論なかった。

朝、お弁当箱に中身を詰めたときのまま。

それどころか、ちょっと寄り弁してて、朝より更に悲惨なことになっていた。

存分にご覧なさい。

これが私の人生で一番最初の、お弁当第一号よ。

「…さぁ、感想は?」

笑うんじゃないでしょうね。

笑ったら、へそに箸よ。

すると、結月君は。

「え、えぇと…」

何と言ったら分からない、みたいな顔をして。

視線をぐるぐると彷徨わせ、ついでに言うべき言葉を必死に探し。

結果、出てきたのは。

「…ど、努力が感じられて…い、良いんじゃないでしょうか?」

…物は言いようってことね。

でも、正直に言って良いのよ。

「下手くそにも程があるだろ」って言って良いのよ。

私でさえそう思ってるから。

私が今日、ドヤ顔で持ってきたお弁当は。

それはそれはもう、タダでもらっても食べたくないほどの酷い出来だった。

何度見ても、やっぱり酷い。

でも持ってきてしまった以上、今更どうしようもなかった。

受け止めなさい、星野唯華。

これが、このお弁当が、私に突きつけられた現実なのよ。
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