LOVE, HATE + LUST

17-2




「ああ、そっか。ちびすけ、国に帰っちゃったんだね」

平日の午前中。

あかねさんがカフェに遊びに来て残念そうに言った。


屋根部屋のソファ。

私は彼女にふたりを見送りに行ったことを話した。

「かわいかったなぁ、フランス版ミニ暉」

あかねさんとトニさんのお店に連れて行くと、あかねさんはもうひとりの「おばばか」になって、リュン君を猫かわいがりしていたっけ。

「ねえ、あかねさんはリュン君のママに会ったことある?」

「ないわ。話に聞いたこともなかったもの。暉に子供がいたなんて、青天の霹靂よ」

「そっか。私、リュン君がビデオ通話してる時にごあいさつしたことがあるんだけど……」



「あー! アナタが朔さん! ハジメマシテ、クレールともうしマス」

フランス語アクセントの上手な日本語であいさつされた。

ダークブラウンのゆるやかなロングヘア、大きなブラウンの瞳。7歳上なら35歳……だけど、25歳と言われても信じちゃう、超ベビーフェイス。

年上のひとに何だけど……すっごくかわいい!

おっとりとして優しそうだけど、すごく芯は強そう。



「リュン君と並んだら、めっちゃかわいい母子って感じ。余計なお世話だから、どうして暉と結婚してくれなかったのかは訊かなかったけど……ほんとは訊いてみたい」

「うーん、そうね。訊いてみたいけど、訊けないねぇ。暉と彼女の事情だし」

「子供が欲しかっただけらしいけど」

「誰の子でもよかったわけではなかったんじゃないかな」

「うん。リュン君の名前は、『光』って意味なんだって。暉と一緒ね」

「うわー、そうなの?!」

「しかも、ミドルネームは旅人の守護天使の名前だって」

「それじゃあ何でって、訊きたくもなるね。まぁ、きっとひとにはわからないんだろうけど。それで、蒼の手はどう?」

「この前やっと抜糸できて、完治にはまだもう少しかかるみたい」

「そっか。夏場なのに大変だね。包帯、暑苦しいだろうに」

「化膿しないようにこまめに消毒はしてるけど、文句が多いし、都合の悪い時だけけが人ぶるの」

「あはは。朔ちゃんに甘えてるんじゃない? あいつも人として成長してるのよ」

 
コンコン。

階段の降り口の床を、にゅうと伸びてきた手がノックする。

そしてふわふわの茶髪の頭がひょこっと現れる。

「失礼します、朔さん、コーヒーです!」

ふわりとコーヒーのアロマが漂う。私とあかねさんのアメリカ―ノをトレイに載せたひょろりとした男の子が現れる。

「ありがとう、(かなで)君」

彼はソファの前のテーブルに私たちのコーヒーを置くと、丁寧にお辞儀してまた階段を下りて行った。


あかねさんが首をかしげる。

「だれ?」

「奏君といって、新しいバイトの子。蒼の事務所のパラリーガルの友坂さんの甥御さんで、音大生なの。今回、暉が長い間空けるからもうひとりバイトを雇おうってことになって、来てもらってるの」

「はぁ。音大生ね。そんな感じ」

「ヴィオラの奏者なんだって。秋になったらお友達と一緒に四重奏で演奏会を開いてくれる予定」

「うわー、似合いそう。繊細な感じね。モテそう!」

私は苦笑してちょっと声を潜める。

「それがね。本人は全く恋愛に興味なし」

「へぇ? あ、もしや、イマドキの恋愛はどうでもいい系?」

「自分がやりたいことにだけエネルギーを注ぎたいんだって」

「そっか。ま、まあ、人それぞれね。うん」

あかねさんも苦笑する。


皆川奏(みなかわかなで)君、ハタチの音大生。器楽専攻弦楽器科でヴィオラを弾いている。

背が高くてひょろりとやせ形。色白でふわふわの茶髪。きれいな顔立ちで温和な性格。海里君が柴犬っぽいなら、彼はゴールデンレトリーバーみたいな感じ。

面接時の海里君と同じような質問を暉と妙子さんからされて、ナゼ彼女がいないのかと訊かれ「べつに、いらないから」と答えたのだ。

ヴィオラも親に勧められて5歳からずっと続けているし嫌いではないというくらいで、海外のコンクールに出たいとか有名なオーケストラに入りたいとかの野望もないらしい。

良くも悪くも、イマドキの子だ。


「ねぇ、彼は蒼の推薦でしょ?」

「うん。暉が誰かいい奴いないか男手がいいんだけどって訊いたら、蒼が連れてきたの。友坂さんが甥っ子がバイトを探してるんだけど、法律事務所は性格上気が進まないって言ってたのを思い出したんだって」

「あはははは! あいつ、マジ腹黒」

「どこが?」

「だってさ、そういう子ならどう見ても心配ゼロでしょ」

「なんの?」

「あのバイト君が朔ちゃんに惚れる確率」

「そんなもの、どこにもあるわけないじゃない」

「そう思うのは、アナタだけだからね。暉だって、信用できないバイトは雇いたくないって言ってたもの」

「でも、誰でもはじめは知らない人だよね?」

「一から探す時間がなかったから、安全物件を選んだんでしょ」

はあ。

私は「誰かに惚れられたら惚れ返しちゃう人」じゃないし。

「蒼って、朔ちゃんに限っては嫉妬深いみたいね。なんか新鮮で見ていて面白いけど。あいつが誰かに夢中なんて、知ってる奴らが見たら仰天するわ」

「夢中?!」

「誰がどう見ても、あいつは朔ちゃんに惚れてるよ。暉の思うつぼになったね」

「思うつぼって? まさかまた暉が何か企んでいたの?」


なに?

またまた、私の知らないこと?

「あ、いやいや、ちがうの。まったく、悪だくみとかじゃないんだけどね……」



あかねさんは気の抜けた苦笑交じりにある秘密を教えてくれた。







✦・✦ What’s your choice? ✦・✦
 草食・絶食系男子をどう思う?
    

A  人それぞれだから否定はしない。

B  私も同じかな。

C  ちょっと興味がある・むしろ好き。

D  絶対にありえない。眼中にない。


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