嫌われ爺さんへの怨み節
律子には、他にも怨みがあった。

それは、律子にはいつだって、選択肢というものが与えられなかったことである。

特に、進学のことで律子は相当、学を今も怨んでいる。

確かに、律子は真面目だが要領が悪く、加奈子のように成績がよいとは言えなかった。

しかし、やはり律子も出来れば都会の大学に進学したい思いがあったのだが、学は、

「女は県外の大学なんか行かんでいい!お前が一流大学に行けるほどの学力があれば話は別だが、お前が入れる大学なんて、どうせ四流だろうが。地元の短大に行かせてやるだけ有り難く思え!」

そして、チャラチャラした学生ばかりの田舎の短大で、一体何を勉強したのかわからない律子は、就活もうまくいかず…。

短大卒業後、もう親元を離れたかった律子だが、学がまた転勤することになり、

「引っ越し先で、外国語の専門学校に通わせてやる」

その言葉に律子は釣られ、結局は短大と専門学校、あわせて四年間、学生生活を送ることになった。

専門学校を卒業したあと、県外での就職を決めた律子は、ようやく親元を離れ、数年後には、就職先の一流ホテルで職場結婚、寿退社したあと、夫の故郷へ引っ越した。

結婚後は、DINKsを選択した夫婦。

律子は、職を転々としたまま30代後半になってしまったが、ようやく、心からやりたいと思う仕事を見つけたのに、それは大卒であることが絶対条件であった。

いくら、短大と専門学校、あわせて4年間通っていても駄目なのである。

志津子は、勉強嫌いの加奈子を無理矢理、それなりの大学へ行かせたが、加奈子は律子と違い怠惰な為、せっかく就職に強い大学を出たものの、

「私、特にやりたい仕事ってないんだよね。不景気だし、どうせいいところに就職なんてムリ。そもそも、そこまで必死で働きたくないもの」

そう開き直り、就活もせず遊んでばかりいた。

律子は、奔放な加奈子に苛立ちを感じたこともあるが、それ以上に、子供の頃から選択肢を奪い続け、何よりも、大切な大切な愛犬と生き別れにさせた学への怨念のほうが遥かに強かった。

(あのクソジジイ…絶対にゆるさない!)
< 11 / 18 >

この作品をシェア

pagetop