曖昧な関係のまま生涯告白などすることのない恋心

 運転する亮君の横顔が対向車のヘッドライトでよく見えていた。

「亮君の奥さん、冴子さん? 素敵な人ね。
やわらかい、あったかい雰囲気の人だなって思った。亮君の子供を三人も産んでくれて感謝しなさいよね」

「一人産むたびに、どんどん太ってるけどな」

「お腹の赤ちゃんを守るために皮下脂肪が付くのよ。すべては赤ちゃんのためよ。女の体はそう出来てるの。何だか羨ましかった。子供を見る目がとってもやさしくて。私には無いものをたくさん持っているんだなぁって思った」

 温かな幸せオーラが全身から溢れていた。
私には太刀打ち出来ない程の……。

「そういえば、親父、ずっと昔、俺に言ったんだ。綾ちゃんを嫁にもらえって。どういうつもりだったか知らないけどな」

「特別な意味は無いんじゃないの? 歳も近いし、子供の頃から知ってたから。それだけのことよ」

「いや。親父は俺の気持ちに気付いていたんだと思う。綾ちゃんに告白する機会なんていくらでもあったのにな」

「…………」
今頃そんなこと言わないで……。

「もう随分、昔の話になるんだよな」

「そうね。昔話よね」

 今でも亮君が好きだよって言ったところで、もうどうしようもない。


 あんなに素敵な家族が居るくせに贅沢なこと言わないでよ。

 一人の寂しさなんて亮君には、きっと分からない。




 赤信号で車は止まった。亮君が私を見ている。

 今、目を合わせたら隠し続けた想いが溢れてしまいそうで怖い。

 絵に描いたような幸せな家庭を壊して欲しいと願ってしまいそうで……。




 ううん。違う。心の中で否定した。
 私は決して、そんなことを望んではいない。

 仕事も充実している。今は生き甲斐にさえなっている。負け惜しみではなく。



 私たちは、ずっと従兄妹でいることを選んだんだろう。

 それは亮君もきっと。男と女ではなく、従兄妹というやさしい関係。



 それからは道を教える以外、黙ったままで車は私のマンションに着いた。

「ありがとう。コーヒーでも入れようか? 濃い目の」

「いや、いいよ。親父の傍に早く戻ってやりたいから」

「うん。そうよね。本当にありがとう。気を付けてね」

「あぁ、じゃあ、またな。仕事、頑張れよ」

 子供の頃と同じ笑顔を見せて帰って行く。伯父さんの待つ家に。


 じゃあ、また……。

 また会う機会もきっとあるだろう。

 私と亮君は、この先も生涯、従兄妹同士なのだから……。


 

    ~~ 完 ~~





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