竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

01 とんでもない獣

 頬から顎に流れた汗がぽたりと落ちて、からからに乾いている地面にすっと染み込んだ。

 肩に届くほどの長さで切り揃えられた、絹糸を思わせる黒髪が揺れた。白いフードを被った色白の顔に、大きくぱっちりとした黒い瞳と赤い唇。

 さんさんと強い日差しが照りつける中で、彼女は召喚士が幻獣を招くための召喚陣を描く鍵杖を両手にしっかりと持っている。まだ見習い召喚士の彼女が手にしているのは何の飾りもない、ただの白い杖だ。その身の丈より、ほんの少し短い程度の長さだろうか。

 彼女は持っている鍵杖を両手でぎゅっと握り締めて、粘土質の赤茶けた地面に円を描いていた。ただ、黙々と正円を描き続けている。描いては靴で押し消して、また描いてを繰り返す。

 ぽたぽたと地面に落ちる汗が、辺りを包む熱気のせいで、まるで最初から存在すらしなかったように呆気なく蒸発していった。

(ナトラージュ……大丈夫か)

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