竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

02 二人の男

(……ラスがその気になれば、そんなことを言っている間に、すぐに殺されちゃうんだけど)

 ヴァンキッシュのように、見るからに魔力を持たない人間であれば、幼いとは言え闘竜ラスが放つ氷のブレスに打ち勝つ術などない。成獣にならなくても、その程度の威力は十分にある。

 ほんの少ししか離れていないのに、未だかつて見たこともない美しい顔に微笑まれ、ナトラージュは顔が真っ赤になった。こんなに近くにまで男の人と顔をくっつけたことはない。

 数年前まで普通の貴族令嬢だったナトラージュは、同じ年頃の男性とあまり親しくしたことがなかった。こういった触れ合いも、特に経験がない。

「困った顔をしないで。体調が悪い女の子を放ってはおけない」

(部屋に忍んで来たら、俺が凍らせてやるぞ)

 立ち上がったラスは凶暴な表情になり、凄むように牙をむいた。ヴァンキッシュは、面白そうに顔を傾け不敵に笑う。

「とても、良いね。竜に守られた宝物なんて、是が非でも手に入れたくなる」
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