竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

20 記憶

「……甥か姪か……楽しみだね。出産祝いは何にしようか」

 スカーレットはあの後、何度もその手の誘惑がとても多そうなヴァンキッシュを脅しつけていた。

 その光景を呆れて見ていたカミーユと二人で長く会えていなかった妹にも会えて安心し、貴族院に申請していた婚姻証明書を手に入れたので、領地ゲインズブールに帰るからと言って去っていった。

 カミーユと姉との関係について大きな勘違いをしていた自分がなんだか恥ずかしく思えて、ナトラージュは目を伏せがちにして答えた。

「赤ちゃんだと、服が良いかもしれませんね。色々と汚したりすると、何枚あっても良いと思いますし……」

「……もう既に、子育てをしたことのあるような人の台詞だね」

 クラリッサ城の広い廊下を二人で歩きながら、ヴァンキッシュは揶揄うように言った。

「ちっ……違います! 子育ては大変だというお話を色んな方から聞いていたりしていたので、なんとなくそう思っただけです。後、赤ちゃんだったラスを育てたことを、子育てだと言われたら確かにそうかもしれません」

「ラスはちょっと生意気だけど、そういうところも可愛いよね……僕たちの子どもの、良いお兄さんになるだろうね」

 ヴァンキッシュはにこにこと幸せそうに微笑み、躊躇う事なくナトラージュと結婚する未来を語った。それを先に望んで彼に言ったのは、他でもない自分なのに思わず顔を赤くした。

(好きな人が自分と結婚をするのを当たり前みたいに言ってくれるの……嬉しい。あの時、勇気出して追いかけて本当に良かった……)

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