竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

23 epilogue(side Las)

 ラスはパタパタと翼を軽く羽ばたかせ、燭台の上にある蝋燭の火を、そっと吹き消した。ピキンと音をたてて白い蝋燭に軽いヒビが入った気がするが、そんなことは気にしない。出来るだけ、手加減したつもりだ。

 ナトラージュは、処理しなければいけない書類に埋もれた机に、うつ伏せで寝てしまっていた。起きたら頬にインクで書いた黒い文字が、写ってしまっていることだろう。

 彼女の足元まで、苦労して一人前を意味する灰色のローブを持ってきたものの、まだまだ小さな体では彼女の肩に上手く掛けられるかわからない。未熟な翼は、不安定過ぎてまだ上手く飛べない。

 いっそのこと起こして、宿舎で寝た方が良いんだろうとは思うが、気持ちよさそうに熟睡しているところをわざわざというのも躊躇われる。このところ、仕事が立て込んでいてナトラージュは多忙だった。

 リンデント王国での召喚士は、幻獣を召喚して使役することだけを仕事としている訳ではない。|縛られし者(リガート)を使い国を守るための国境の結界の維持のための計画などにも関わり、そういった国防のための書類を作成するのも仕事の内だった。

< 220 / 228 >

この作品をシェア

pagetop