竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

06 元カノ

(この前にも、なんだかんだで会ったところだし……別に、もう良いだろ。わざわざ休日に出向いて、礼をする程のことじゃない)

 広い廊下を先に歩くナトラージュの後に続きながら、ペタペタと歩くラスは不満気な様子だ。

 用意した菓子折りを持って、ヴァンキッシュにこの間助けて貰った礼に行こうと、ラスに言ったら「あの派手な男は甘い言葉が息を吸うように口から出てくるんだから、甘い物なんて要らないんじゃないか」と真顔で言った。ナトラージュはしたり顔の竜の額を、思わずペチンと叩いてしまった。

「ラスには、まだわからないと思うけど。こういう事は、ちゃんとしておいた方が良いのよ。なあなあにしておいて、後々問題になるのは嫌でしょう? 助けて貰ったお礼は、その後速やかにきちんとしておくの」

 いまいちこの前に助けて貰った礼を言いに行くのに納得がいっていないラスに、そう言い聞かせながら、訪問先の外交官が駐在している城の別棟に歩いて行くナトラージュは何故だか心が湧き立つような思いを感じていた。

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