竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる

09 責任

(……おい。大丈夫かよ。ナトラージュ)

 ラスは心配そうな様子で、朝から様子のおかしいナトラージュを見上げた。

 ここはいつもの見習い召喚士が使用する広場で、一人前認定試験用のシルフィード召喚を練習していた。召喚陣を出来るだけ正円に近づけるために、描いては消してを何度も何度も繰り返している。

「……私のことは心配しなくても、大丈夫だから……それより、ラスは導師さまに今日は午後から呼ばれているんでしょう。私は、ここで一人で練習してるから……」

 いかにも無理して微笑んでいるナトラージュの様子に、ラスは心配そうに何度か振り向きながらも去って行った。

 彼がそんな風に気にするのも、無理はない。ナトラージュはあの怖い思いをした昨夜から、自分の様子がおかしい事は気がついていた。

(死ぬほどに怖い思いをした後に、傍で優しくして貰ったせいか。どうしても、あの人が気になってしまう)

 もちろん。それだけではなく、積み重ねられた甘い言葉も、理由にはなるだろう。

 「あの男は、絶対好きになってはいけない」と、彼に接触を持つようになってから、誰彼となく口を酸っぱくして忠告された。恋をしたとしても彼が飽きてしまえば「はい、もう終わり」の恋愛ゲームになど、決して乗ってはいけないと。

(……でも……彼と……たった一時だとしても、相思相愛になれるなら……それで、良いのかも。別れる時は、そりゃ悲しくはなるかもしれないけど、その後、良い思い出として。生きていけるなら……)

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