殺すように、愛して。
 吐息を漏らす俺の手が、動く。徐に、動く。一度口に入れて嘔吐を催促しようとしたその手が、また、俺の口内を目指していた。何をしているのだろうと思っても、止められない。

 唾液で濡れて、それが乾いて冷たくなった指を再び咥えた俺は、喉を突くでもなく、舌を押すでもなく、ただ、食んで、舐めていた。黛が淫猥に動かしていたのを思い出しながらそれを真似し、一心不乱に自分の舌を掻き回す。

 黛はどうやって動かしていたのか。黛はどうやって触っていたのか。黛は今どこにいるのか。黛は今何をしているのか。黛は。黛は。黛。黛。黛。まゆずみ。まゆずみ。違う。違う。アルファ。違う。アルファ。違う。アルファ。アルファ、が、欲しい。違う。欲しい。アルファ。俺は。オメガは、ここ。違う。やめて。違う。欲しい。アルファ。

 指で舌を触りながら、片手は屹立しかけている下半身に触れた。いやだ、いやだ、と頭では自分の破廉恥な行動を抑えようとするが、本能が邪魔をして止められない。

 涙が頬を伝う。気持ちよさに泣いているのか、怖くて泣いているのか、自分を止められないことに泣いているのか、分からなかった。分からなくて、分からなくて、分からないのに、パニックなのに、無我夢中で快感を求める俺は、涎を垂らしながら我慢できない声を漏らしてしまっていて。下半身は淫らに濡れていた。

 もう、認めないわけにはいかなかった。違うと言えるはずもなかった。服の上から少し触っただけで、どうしようもないほどの快感が全身に走るこの異常な体は、発情によるものだと言わざるを得なかった。

 これが、発情期。初めての、発情期。自分は、正真正銘の、オメガ。無自覚に雄を誘う、オメガ。
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