殺すように、愛して。
 似たようなことを、同じことを、繰り返し考えたところで、現実は変わらず、揺らがなかった。今日この日から、俺は一人のアルファの番となり、普通とは違う繋がりを持つことになってしまったのだ。発情期の度、他のアルファを無自覚に誘惑することはなくなっただろうに、少しも安心感は得られず、体調ばかり悪くなっていくようだった。

 もう諦めて受け入れてしまえば、この苦痛も楽になるのだろうか。彼のことを、自分の番だと素直に認めてしまえば、全て丸く収まるのだろうか。リードを引かれるように、大人しく従順になっていれば、誰も傷つかないのだろうか。もういっそ、俺が、死ねば、消えれば。ああ、ダメだ、死にたい。消えたい。しにたい。きえたい。

 溢れ続ける涙を零しながら、自分を殺すことばかり考えて、考えたとしても、受け入れるのも、認めるのも、従順になるのも、死ぬのも、消えるのも、死んで消えるのも、消えて死ぬのも、容易ではなかった。なけなしの矜持が働いてしまう。死にたい、消えたい。選んでも何も解決しないそこに逃げてばかりで、自分が今何をすべきなのかすら判断できなかった。

 全身を脅かす不快感が拭えず、いつまでも洋式トイレの前から動けない。虚無だった。途方に暮れていた。何もする気が起きなかった。気持ち悪いだけだった。このまま死ねばいいのだろうか。死ねば終わるのだろうか。勝手に死んでくれないだろうか。死にたい。死にたい。死が欲しい。手を伸ばす。ちらつく。死。そこに、それに、俺は。救いを求めてしまう。悪い癖だ。すぐ。死にたい。死にたい。そればかり、なのは。死にたいと。死にたいと思ってしまう自分が。それを癖だといって軽く済ます自分が。心底。嫌いだ。きらいだ。だいきらい。
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