殺すように、愛して。

6

 約一週間、発情期のために大事をとっていた間に、各教科の授業内容は随分と進んでいた。周りはみんな理解しているようなことも、障害にぶつかり遅れをとった俺は何も理解できず、大きな差をつけられていることに焦りばかりが募る。おまけに、想像していた通り、俺がオメガであることを察しているようなクラスメートの視線も痛くて。確認をとられることこそなかったが、それでも、いくつもの好奇の眼差しに心中穏やかではいられなかった。俺が復帰したからといって、俺一人のために巻き戻されるはずもない授業に早く追いつきたいのに、他人の目が気になってそれどころではなくなる。

 俯いて小さくなり、先生の話を聞き流してしまいながら、俺だけ初見な新しい単元のページを指示されるままに開いた状態で、B罫のノートの上を占領する、達筆な文字が並んだルーズリーフをただじっと見つめる。俺の筆跡ではなかった。俺のルーズリーフでもなかった。だったら誰の字で誰の私物なのかと言えば、これは、瀬那が休んでる間に教わった全授業の板書だよ、と机の中に入れられていた多くのルーズリーフを見て困惑する俺に、音もなく近づいて言葉を落としてきた黛のものだった。

 突然声をかけられ驚きはしたが、誰かにノートは見せてもらわないといけないな、とは思っていたため、そうする前に気を遣ってくれた彼の厚意を、多少躊躇いつつも素直に受け取ることにした俺は、短いお礼とすぐに返す旨を伝えた。でも、黛本人から、あげるよ、と最初からそのつもりだったとでも言わんばかりに告げられ、え、と彼の筆跡が並ぶルーズリーフを手にしたまま彼を見上げれば、もう一度、あげるよ、と言い聞かすように復唱されてしまった。その後は、なんとなく噛み合わない会話が続いた。
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