殺すように、愛して。
「おいしい、瀬那。瀬那の肌も涙も唾液も全部おいしいから、もっと濃い色の吐瀉物もきっとおいしいんだろうね、瀬那」

 たらたら、ぬらぬら、てらてら、どろどろ、ぬめぬめ。そこにあるのはどれも不快な気分になりそうなオノマトペばかりだった。油の中に手を入れたみたいにぎとぎとに濡れた指を俺の口から抜いた黛は、重たそうに垂れる液体を零さないように自身の舌で自身の指を妖艶に舐め始める。まさか、と思う暇もなく、そんな余裕もやっぱりなく、異常なその行動を、口を半開きにしたまま、ただ見ていることしかできなかった。瞳孔が開いてギラギラした目は、俺を捕らえて離さない。

 舐めて、舐めて、舐めて。自分の指を舐める黛は、その指に染みた俺の唾液と吐瀉物を味わい、自分の手を自分の唾液に塗り替えて湿らせた。狂っている。狂っていた。その手で俺の頬に触れ、顎を伝う涙や涎や嘔吐物が混ざった気持ち悪いはずの液すら綺麗に舐め、自分がおいしいものは俺もおいしいはずだと決めつけて押し付けんばかりに、彼はその舌で再び俺の口内を犯した。不快なはずなのに、まるで洗脳されたようにどこを見ているのか分からなくなっている俺は、黛を受け入れて、受け止めていた。狂っている。狂っていた。

 黛が俺を食している。アルファがオメガを食している。どこをどう切り取っても、オメガの俺は性的倒錯のあるアルファの黛に気に入られ、捕まってしまったのだと思わざるを得ない。自分の吐瀉物も涙も全くおいしくなかったが、自分のものとは違う黛の唾液は、一回目は何も感じなかったのに、二回目となるとやたらと甘く感じた。狂っていた。
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