愛があなたを見捨てたとしても
プロローグ
店員というものは不思議だ。

客側が店員を認知していないことは多いのに、店員側は特定の常連客の顔はもちろん、頼むメニューまで覚えている場合が多いのだから。


現に、今回もそうだった。



「琴葉(ことは)ちゃん、またあの人来たよ」

「あ、本当だ」


地元の駅前にあるファストフード店。

そこでレジ打ちと接客を担当しているわたしは、同期の森山さんの言葉で顔を上げた。

カランコロンとベルが鳴り、入ってくるのはお洒落なワンピースに身を包んだ大学生くらいのお姉さん。


彼女は、いつも私たち店員にも優しく笑いかけてくれる気さくな常連さんなのだ。


「いらっしゃいませー」


そう声を張り上げながら、わたしは森山さんと顔を見合わせて微笑み合った。



バイトというものは、バイト仲間と常連客の人柄の良さで善し悪しが分かれるもの。

人間関係が原因で何度も新しいバイト先を探している友達に比べたら、その両方において何の不満もないわたしは恵まれているのだとつくづく感じてしまう。


「ご注文のご確認をお願いします。チーズバーガーセットがおひとつ、お飲み物はコーラでお間違いないですかー」


決められたマニュアル通りに注文を復唱するのも、慣れなかったレジ打ちをすることも、この仕事を始めて半年経った今ではお手のもの。
< 1 / 23 >

この作品をシェア

pagetop