Honey Trap
「美味いじゃん」
男は私の手にピンクのハートのクッキーを握らせると、自分もひとつ手に取り口に放り込んだ。
素直な感想が嬉しくて、私も一口かじる。
「美千香はさ、保育園に友達いる?」
「あんまり、いない…」
私の中ではすっかり楽しい時間を過ごしていた時だ。
唐突な問いかけに同年代の子たちの姿を思い浮かべて、私の表情は途端に曇る。
「友達と一緒に遊んだりしないの?」
「…するけど、たのしくない」
「なにするの?」
「おままごととか…」
「おままごと、ね。じゃあ、これからは俺が美千香の友達な」
子供らしく取り繕った仮面の下に隠した本質も、男には全てお見通しだったのかもしれない。
含みのある言い方が気になったけれど、その時の私はすぐに男から放たれた "友達" の言葉に惹きつけられた。
「うん!」
まるで微量の毒を盛られているように。
少しずつ、少しずつ、私は男の魅力に傾倒していった。