Honey Trap



教室に戻ると、昼休みの教室にはすでに友人同士の輪ができ上がっていた。


言い捨てるみたいな男の最後の台詞が耳にこびりついて、まるで見捨てられたような心地になる。


そうよ、あんたが言えたことじゃないでしょう。


そう言ってやりたいのに、どこにあるかも分からない本心の欠片を取り零したら、もう二度と見つけられない気がして。

迂闊な行動は取れない。



「あ、美千香。ごはん食べよー」


窓際の席から手を振っている里央たちのもとへ、自分のお弁当を持って向かう。

私を待っていてくれたのか、彼女は手つかずのお弁当を広げるところだった。


「ごめんね」

「いいよ。それよりなんだった?」


当然の疑問は日常会話のごく一部と化して、軽く落とされる。

それが酷く、この関係の薄ぺらさを強調しているように思えたから。


「お小言、言われただけよ」


嘘にはならないギリギリのラインを探りながら、ここにはいない相手に少しばかり強調してそれに答えれば、大袈裟な反応が返ってくる。



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