海色の世界を、君のとなりで。

不満や言いたいことを溜め込んで自分を押し殺して作業をしていた彼女と一緒に書類作成をした日。


同じ傘に入って帰った日。


一緒に花火を見た日。



修学旅行で二人で歩いた日。


雨に濡れたあの日。


彼女を腕に閉じ込めた日。



このまま時が止まればいいのに。



そう、何度思ったことだろう。



どの日もすべてが輝いていて、言葉じゃ表せないほど嬉しかった。


俺にとって、泣きたくなるほど大切なものだった。



「なんか私……星野くんには敵わない気がします」



小鞠が笑いながら空を見上げた。


春空に目を向ける小鞠の横顔はすっきりとしていた。



「当たり前だろ」



強気に返しておいた。


澄み渡る青空はどこまでも広がっていて終わりがない。


これほどまでに強力な恋敵がいたということは、生涯俺の誇りになるだろう。




「……ふふっ、星野くんらしい」




花信風(かしんふう)に髪が揺れる。



そんな小鞠の呟きは、蒼穹に溶けて消えていった。

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