海色の世界を、君のとなりで。

そろそろ、時間だ。


大きな鏡で姿を確認して、自室を出る。



修了式の翌日である三月中旬の今日。


午前中は他用があると言われてしまったため、午後から彼とある約束をしたのだ。



「……お父さん、行ってきます」



その背中に呼びかけると、小さく広い肩がわずかに揺れたような気がした。



わたしは今日、海に行く。



大好きな母を奪った海に。


悔やんでも悔やみきれなかった海に。


海が青いことを、そしてそれがどこまでも広がっていることを確かめに。



以前星野が誘ってくれた海。


あのときは断ってしまったけれど、いつまでも怯えているわけにはいかなかった。


わたしは、もう今までのわたしじゃない。
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