悪党みてぇな貴族だった俺、転生した現代で小動物系美少女をふる
四章 たった一人の最愛は
 廊下で逃げるように走り去られてから、なぜか理樹は、沙羅に避けられるようになった。
 登校中に鉢合わせすると、彼女は走れもしない癖にレイの手を掴んで逃走し、移動教室の際に顔を見掛けたと思ったら逃げられる。

 あらから一週間、もうずっとこの調子が続いていた。一部の生徒の中で、桜羽沙羅がとうとう九条理樹に愛想を尽かしたのでは、という噂も広がり始めていた。

 その話は理樹も耳にした。平穏なのはいいことだ。おかげでレイが五組の教室に飛び込んでくることもなくなったし、授業後の休み時間に少し眠れたりする。最高じゃないか、と思った。

「なぁ、親友よ。お前は沙羅ちゃんが気にならないのか?」
「別に。そもそも、俺は告白を断っているんだが?」

 帰りのホームルームを終えてすぐ、鞄に荷物を詰めていた拓斗が、前の席からこちらを振り返ってそう言った。

 なぜそんな質問をしてくるんだと小さく睨み付けると、「あ~っと……まぁ、そうだったよな」と何か言いたそうな顔で帰り支度の作業に戻る。しかし、その後頭部が疑問を示して左へと傾いたのが見えた。
< 198 / 237 >

この作品をシェア

pagetop