親が体験した怪奇譚/短編ホラー集ー家族愛編ー
その5


「世の中には霊能力者と呼ばれる人が多くいて、お祓いなり予知なりで人の力になっているわ。テレビにもよく取り上げてるわよね。でも、ああいう人たちはごく一部だと思う。私みたいに、人が持ち得ない力があったとしても、その使い方が分からない、うまく使えないという人が大多数よ、きっと」

ここでお母さんは顔を上げ、少し声のトーンを上げて続けました。

「その人たちは、なまじ人が分からないことが分かったり見えたりして、かえって苦しんでる。私のように…。瑛子は違ったけど、彩香やこれから生まれてくる子はもしかすると、お母さんやおばあちゃんみたいに”見える”かもしれないわ。だから…」

私には母の言いたいことがしっかり伝わりました。
周りの家族が理解者となって寄り添ってあげること…、それが不完全な能力を有する人間の苦悩をどれだけ癒すことになるか…。

母は自分が苦しんできた中で、たどり着いた回答を娘の私に伝えてくれたのです。


...


「…お母さんも年と共にだんだん見えなくなってきてね。瑛子の事故だって、直前に会ってるのに何も感じることができなかったしね。でも、外に出て見て見ぬふりをしなくてすんで、ホッとしてるの。まるで、目に入る景色が今までと違うみたいに見えるのよ。だから、もうあなたに告白できる時期が来たって思ったの」

「お母さん、全部話してくれてありがとう。もし彩香が”そう”だったら今のお母さんの言葉をよく思い出して、ちゃんと接するよ」

お母さんはこの私の言葉を聞いて、何とも穏やかな顔で笑ってくれました。



お母さん言うように、この日本には、普通の人が持ち得ない何らかの力がありながら、いえ、持つが故、人知れず苦しんでいる人が大勢いるのでしょう。

私達凡人は、自分たちがもたざる能力を有する人たちを羨んだりしがちです。
しかし、彼らの中には、見て見ぬふりという不本意な選択に甘んじるがため、普通の人がいつも目にできる光景からさえも目を逸らさざるを得ないのです。

この日、私は母の告白によって、隣の芝生の青さだけに目を奪われない、立体的な眼力という能力を授かったような気がしました。



ー完ー




< 13 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop