真実の愛を見つけられたのですね。とても素晴らしいので、私も殿下を見習います

01 婚約破棄宣言

「アレクサンドラ! 今日、この場でお前との婚約を破棄する!」

 煌びやかな夜会会場に、この国の第一王子サティスの声が響いた。名前を呼ばれた侯爵令嬢アレクサンドラは、貴族たちとの会話をにこやかに切り上げてから、サティスに向き直り優雅な仕草で口元を扇で隠す。

「サティス殿下、そのお話はこの場に相応しくありません。後日、両家を交えて……」
「逃げるのか!? 見苦しいぞ!」

 サティスは、すぐ側に佇んでいたピンクブロンドの髪を持つ可憐な少女の肩を抱き寄せた。

「お前が嫉妬から、このエルを虐げていたことは明白だ!」

 男爵令嬢のエルは、微かに震え瞳に涙を浮かべながら、儚げにサティスの胸元に寄り添っている。エルのように『自分を最大限魅力的に見せるにはどうすればいいのか』が分かっている女性は、アレクサンドラも嫌いじゃない。

 女性が美しくあるには、常日頃からのお手入れと、たゆまぬ努力が必要なことを同じ女性として知っているから。

 エルは、最大限に引き出した魅力を政治的に利用して自分自身と生家に利益を生み出そうとしている。彼女が男爵令嬢ではなく、せめて伯爵令嬢であったなら、また別の未来があったのかもしれない。

 サティスがエルに「大丈夫だ。君のことは必ず私が守る」と優しく微笑みかけたので、アレクサンドラは考えることを中断した。

 アレクサンドラの周囲で波のようにざわめきが広がっていく。夜会に参加していた貴族たちは口々に「何が起こっているのだ?」や「サティス殿下の婚約者は、侯爵令嬢のアレクサンドラ様では?」などと囁き合い、皆、困惑している。

 熱く見つめ合うサティスとエルは、二人の世界に入っているようで、お互いに謎の愛称を呼び合いながら徐々に顔を近づけていく。

「エルル……」
「サーサ……」

 愛し合う二人を引き裂くように、アレクサンドラはわざと大きな音を鳴らして扇を閉じた。今日の夜会は、他国の来賓はないものの、王家主催の夜会だった。そのような場で、これ以上のことをしてもらっては困る。

「お話は分かりました」

 アレクサンドラが淡々と答えると、憎悪を浮かべた瞳でサティスが睨みつけてくる。

「私たちの邪魔をするとは!? 本当に無礼な女だ!」

 アレクサンドラの背後で「無礼なのはどちらかしら?」と誰かの小声が聞こえてきたので、アレクサンドラも心の中で激しく同意した。

(本当に昔から残念な方ね)

 アレクサンドラがサティスと初めて会ったのは、十歳のときだった。その当時からサティスは、自分勝手で偉そう。そして、難しいことを考えるのが苦手な上に、夢見がちな性格だった。

 「俺は王子だ! 偉いんだぞ! 俺の言うことは絶対だ!」と言われ、子ども心にアレクサンドラは『何? このバカ王子』と思ったことが昨日のことのように思い出された。その場に同席していたサティスの弟である第二王子が落ち着いていたので、サティスの奔放ぶりがより際立っていた。
< 1 / 8 >

この作品をシェア

pagetop