真実の愛を見つけられたのですね。とても素晴らしいので、私も殿下を見習います

07 申し訳ありませんでした

「現状を理解できましたか?」

 バルトの声は、相変わらず淡々としている。

「兄上は、アレクサンドラ嬢が王妃になり、侯爵家が栄えるのを良く思わない者たちに嵌められたのです」
「ぐっ」
「処罰はまぬがれません。どうして道を踏み外してしまわれたのですか?」

 サティスは「……このまま皆に馬鹿にされ見下されて、操り人形のように生きていれば良かったと?」と暗い瞳で呟いた。

「兄上、上に立つ者が必ずしも優秀である必要はありません。しかし、その場合は、支えてくれる者たちへの敬意が絶対条件です。貴方は、貴方を支えてくれる者たちに対抗するのではなく、誠実に接し感謝すれば良かったのです。それでうまくいくように、陛下は兄上の周囲を一際優秀な人材で固めてくれていたのですよ。このままいけば、貴方は王太子に選ばれ、いずれ王になっていた」

 バルトが騎士たちに目配せをすると、サティスは騎士に取り囲まれた。

「私を誰だと思っている!? 無礼者!」

 見苦しく暴れるサティスをバルトは無感情に見つめていたが、ふと夜会会場の隅を見た。

「これで、諦めがつきましたか?」

 視線の先には、顔をしかめている王と王妃の姿があった。気がついた貴族たちは一斉に恭しく頭を下げる。

 王が片手を上げると、顔を上げた貴族たちは左右に分かれて王と王妃のために道を作った。

 サティスの側まで近づいてきた王はただ一言「残念だ」と伝えた。情けない顔をしたサティスが「父上……」と呟く。

 王から返事はなく返ってきたのは、重々しいため息だけだった。

「は、母上……」

 すがるように王妃を見ると、王妃はもの悲しそうに答えた。

「サティス、近頃の貴方の愚行は私たちの耳にも届いていました。これは最後の賭けだったのですよ」
「それは、どういう……?」

「全ては貴方の心を見極めるためでした。私たちとアレクサンドラの両親がわざとこの国から出る機会を作ると、貴方がどう出るのか」
「わ、私を騙したのですか!?」

 サティスの言葉に王妃は「先にアレクサンドラを騙して陥れようとしたのは貴方でしょう? そのようなことをしなければ、こんなことをする必要はありませんでした」と瞳を伏せた。

「アレクサンドラは、貴方と国に存分に尽くしてくれたでしょう?」
「……そうです。だが、彼女は私を愛してはいなかった! だから、だから、私は……」

 アレクサンドラは、「少しだけよろしいでしょうか?」と王に発言権を求めた。

「よかろう」
「ありがとうございます」

 優雅に会釈したあとに、アレクサンドラはサティスに向き直った。

「サティス殿下。殿下のおっしゃる通り、わたくしは殿下のことを愛しておりませんでした」
「ほら! ほらなっ、だから私はエルに惹かれたのだ! お前の愛がなかったから!」

 興奮するサティスに、アレクサンドラは静かに答えた。

「ですが、殿下もわたくしを愛しておられなかったでしょう? どうしてわたくしだけが殿下を愛していなかったことを責められるのでしょうか? 愛がないのが問題ならば、わたくしを愛さなかった殿下にも問題があるのでは?」

 サティスは、ダンッと床を踏みつけた。

「そういうところがっ! お前のそういうところが、昔からずっと嫌いだった!」

 アレクサンドラは、サティスの青い瞳を真摯に見つめた。

「わたくしは、殿下のことを嫌いではありませんでした。貴方を支える日々は、とても充実しておりましたし、わたくしは本気で貴方が王になる未来を見据えて行動しておりました。貴方と共に、生涯この国に尽くすことを夢見ておりました」

 国王になったサティスの隣に立ち、その横で達成感と共に微笑む未来がアレクサンドラには確かにあった。愛はなくとも愛国心とサティスへの忠誠心だけは本物だった。

「でもそのわたくしの思いが、ずっとサティス殿下を苦しめていたのですね……。本当に……申し訳ありませんでした」

 後悔の念からアレクサンドラが、深く頭を下げると、サティスは床に崩れ落ちた。

「あ、ああ……」

 王が「連れて行け」と告げると、サティスは騎士たちに連行されていく。
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