とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【更新停滞中】
「由紀ちゃん、どうしたの。こんなこと、いままでは」

「おかしい、じゃないですか。いつも、わたしだけが……脱がしてもらうのって。
だから。平等じゃ、ないから」

この状況に平等という言葉は、あまりにそぐわなかった。
だけど他にうまい理由も浮かばなかった。

ふっと笑った邑木さんが顔を寄せる。

「そうか。戻ってきて、よかったな」

眼鏡なしで交わす口づけは、遮るものがなにもなかった。

微かに揺れる睫毛の気配を、瞼で感じる。
上唇がほどけ、下唇が邑木さんを受け入れ、舌が溶けていく。

思考も視覚も、すぐに覚束なくなった。
衝動と理性と胸の高鳴りがぶつかり合って、理性だけがはらはらと剝がれ落ちる。


「あたらよって、こういうことなんだろうな」

ふっと微笑んだ邑木さんが呟いた。

「あたら、よ?」

「そう。あたらよ」

「どういう意味ですか」

邑木さんはやっぱりふっと微笑み、質問に答える代わりに、今夜もわたしをくたくたにとろけさせた。
< 172 / 187 >

この作品をシェア

pagetop