君と二人でいられること。

縮まる距離

お互いを名前呼びしはじめて一週間がたとうとしていた。

今日は、高校に入ってはじめての体育祭。中学最後の体育祭はつらいのが嫌だからサボってたんだっけ?

「弁当?」

朝からおにぎりを握っていると、後ろから夏也くんの声がきこえる。

「うん。卵焼き食べる?」
 

問いかけてみると、目を輝かせて首を縦に大きく振った。そんな姿がかわいくて少し笑みをこぼすと、

「何笑ってんだよ」

と、むっとすねたように見つめてきた。

「何でもないよ。はい!」

サラッと流して彼の方に卵焼きをつまんだ箸を差し出す。

「は、な⁉」

するとなぜか彼はリンゴのように真っ赤な顔をして目を見開いた。

そんな彼の様子を不思議に思っていると、彼はため息をこぼして卵焼きを食べた。

「ん、うまい」

口に入れた途端満面の笑みで私に感想を伝えてくれた。

あの日から、夏也くんは感情表現をよくしてくれるようになった。私にとっては、夏也くんの新しい表情を見られることが楽しくてしかたがなかった。

お弁当を作り終えてから洗面台に向かい、髪を整えていると、鏡越しに夏也くんが来たことがわかった。

「どうかしたの?」

結び終えた髪を一通り固定し終えてから彼にたずねると、事前にもらったハチマキで私の視界をうばった。

髪に何かが触れる感覚がして、視界が開けると私の髪にはハチマキと同じ黄色のシュシュがあった。

「え?」

驚いて後ろを向くと、いたずらっぽい笑みを浮かべた夏也くんがいた。

「いつもの飯のお礼」

それだけ言うと、洗面所から出て行ってしまった。

顔が熱くなっているのがわかる。彼は、こういうのが好きじゃない。それでもこうして頑張ってくれているのがうれしくてしかたなかった。
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