溺欲ーできよくー 大人向けショートショート③

その11

その11



「…ちょっと乱暴すぎた。ゴメン、ミユキ…。今日はどこか、いつもと違ってたよ、オレ」


「ううん…。私も今日は今までとは”全然”だったの…。なんか、この年になって気持ちが”弾けた”っていうか…」


二人はベッドの中でとなり合い、しおらしく天井を見つめながらの”事後会話”…。
お互い、還暦になっても今までと変わりなく、お互いを気遣いあってはいる。


だが、自ら”不倫の鏡”を自負し、内心気どっていた裕一とミユキの心の奥底には、ここに及び、大きな変化…、というかほころびが生じていた。
これまた、仲良くお二人とも、同様に…。


***


”うふふ‥。主人の成年後見人に就いたからには、もうコト成就よ。どケチだったあの人がしっかりため込んでて、これまで私になんか指一本触れさせなかった財産はさ、これから私の思うままに使えるのよ!痴呆の主人も介護万全の施設に移したし、後は死ぬのを待つだけ…”


”ふふふ‥、女房はやっと逝ってくれた。保険もたんまり入ったし、もう人生の悩みなんて還暦女にいちいち相談もクソもないしな。余生はもっと本能に任せて思いっきり楽しんでやるさ”


”…これからの終活は今までの分を取り戻して、老いらくの派手女(ハデじょ)でいくわ!うっとおしい親戚なんか、ここまできたら無視でいいし。この人ともフェードアウトでうまく持って行かないと…。今日は今まで抑えてた気持ちを飛び越えて、激しくヤレたし、もういいわ。実際、飽きたし…”


”…ミユキとはさんざんヤッたし、今日で前から望んでたハードバージョンも済ませた。ここらでさりげなく切れて終いにしなくちゃな。しかし…、ベッドの上ではコイツ、過去20年と今日、まるで別人だったわ…。まあ、本性はいいタマだわ、ミユキって女も。…今度は若いのがいいな、へへ…”


この後、二人は双方共同様に抱いていた望み通り、長きに渡ったマラソン不倫関係を、両者快諾で穏便な幕引きとなる。
裕一とミユキは内心、別れ話の切り出しには、ドキドキものだったろうが…。
結論、そんなものは杞憂でしかなかった訳で!


さらなる結論⇒ここに、不倫の鏡と自らを讃えていたご両人は、見事めでたしめでたしの、長~いカンケー清算を実現させ得た。
この二人なら、至極、当たり前だが…!


***


自称、熟不倫の理想像カップル、有島裕一と長谷ミユキ…。


奇しくも二人は還暦を迎えたところで、共にそれぞれの連れ合いという”お荷物”から解放され、”その間のご苦労さん賃”がどっさり懐に転がりこんだ。
その途端、奇妙な程一致点を持ち合った”不倫の鏡たち”は、化けの皮という本性を覆っていた隠れみのが溶けた。


結果…、二人が共通して本当に溺れていたモノの正体が明らかとなったのではないか…。
もっとも、この二人が”それ”に気づく高尚なココロなどは、とうに失っていたであろう。


おそらく…、裕一とミユキは、熟不倫のお手本を貫いたという自画自賛の4文字を抱きしめて棺桶に入ることだろう…。
共に満足げな笑顔を以って。



ーFINー




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