溺欲ーできよくー 大人向けショートショート③

その9

その9



さて‥、午後2時半を回ったとこで、 二人は”いつも”のように、”移動”した。


この日は、過去最も”通った”某ホテル最上階とした。
で…、部屋に入った後も、裕一とミユキは”いつも通り”であった。
表向き、見かけ上は…。


まずは一緒に岩風呂風の浴室で体を洗い合い、その後、仲良く混浴…。
その際は適度にいちゃつくが、エッチまではセーブする。
浴室から出ると、ここでもお互いに体をバスタオルで拭きあい、もう熟練の不倫カップルここにありきという格好の佇まいだ。


そして裕一が湯気の立つ火照った体をベッドに寝かせ、うつ伏せになると、ミユキが両手でのマッサージにかかる…。
これもいつもと同じ…。


***


「…ミユキ、一応改まって何だが、還暦を迎えるまで”初心”を忘れず、当初お互いに決めたルールとおり、ずっと続いててくれてありがとう。心から感謝してるよ」


「ううん、私の方こそ、心の底から感謝、感謝だわ。今回、1年近くかけてそれこそ様々なハードルを乗り超えて、やっと主人の成年後見人の指名を家裁から取り付けた…。前回、あなたのアドバイスや励ましがなかったら挫折してたと思うし。さっきも親戚からの茶々や要求に頭を抱えていた私に、知恵と勇気をくれたわ。これでやれるって気持ちになったもん。今日は特別にありがとうと言わせて。裕一さん…」


「オレも今日、お前に話を聞いてもらって、これからの老後をポジティブに生きる活力をもらったよ。この2年余り、女房の看病で参っていた。前回ミユキに激励され、何とか今般、妻を看取れた…。でも、死んじまった女房との向き合い方には正直、いろいろ悩んでな。それを、今さっきお前からの助言を得て、踏ん切りがついた。肩が軽くなったよ、ホント」


「それ、私のマッサージが効いたってことじゃないの?」


ここで二人は、口をおっぴろげての大笑いだった。


...


この日はエッチ前の恒例、お互いへの”褒め殺し”の儀式はいつも以上に念入りだった訳で···。
二人供、これでもかってくらいに相手を持ち上げていたのだ。
もっとも、本心で”喜んでいる”のは間違いなく、”それ”に比例していたのだろうが…。


その後、二人の会話が一区切りすると、互いに下着姿になった裕一とミユキはベッドに腰を下ろして手を握り、ここで唇を重ね合った。
そして、まるでスローモーションかかったように、二人同時に体を重ねながらベッドへと横になった。


裕一は”最初”以来、常にミユキを優しく愛していた。
ソフトで濃密な愛撫、さらに丁寧な前戯…。
他方、ミユキの方もそれこそ初めての時から、受身で彼に身を任せ、欲望に火をつけてもらう”役目”を貫いていた。


それは両者とも長年にわたり、相手を思いやる初心を大切に持ちえてきたことによる自然な行為であったとは言える。


という訳ではあるが、共に”節目”と捉えた本日の情事では、さしもの二人も、俄かにいつもと違う眠れるモードがオンされるのだった…。





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