潮風、駆ける、サボタージュ

第4話 天才

家に帰ってからも雨音はますます強く鳴り続けていたが、ベッドの上の由夏にはその音は届いていない。

高橋は天才じゃなかった。
努力をしていた。

その事実に由夏の気持ちはドン底に突き落とされていた。
自分だけとは言わないが、自分や自分と同程度のレベルの“普通の”人間だけが努力をして、それでも報われるか報われないかというところで、(もが)き苦しんでいると思っていた。

(勉強してたんだ。
良い成績を取れる、ちゃんとした理由があったんだ。)

“高橋は努力してないけど、天才だから成績が良い”
それが由夏にとっての圭吾像だった。
そして“努力しても天才じゃないから上手くいかない”という、自分の置かれている状況に対しての慰めだった。
そんな、いわばギリギリのところで支えになっていたものがぽっきりと折られてしまった。

『高橋に何がわかるの?』
『ちゃんと真面目にやってるのに』

(あんな言葉、聞いてどう思った?なんで何も言い返さなかったの?
「努力してもできないんだ」ってやっぱり馬鹿にしてるの?
あーあ
あーあ
あーあ
恥ずかしい
馬鹿みたい
ダサい
最低
消えたい)

思い切り自分を罵った。
そしてふと、もう無理だ、と思った。
プツっと何がが切れてしまう感覚に襲われた。
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