瞳の中の住人

木崎綾音.5


 電話口で息をひそめる気配が伝わった。

「もしもし」と若干くぐもったような、こちらを警戒するような声が鼓膜をふるわせる。

「なんですか、あれ! 電話番号を書いたしおりをはさんでおくなら、母にちゃんと言付けておいてくれないと!」

 開口一番に私は白石刀哉を責めたてた。それにたいして彼は「ごめん」とつづけ、「綾音さん、なんだよね? 電話のマナーはちゃんとしてくれないと困るよ」とこちらをなだめるような声を出した。

「私と違って居所の知れないあなたが……。突然いなくなったことの方がよっぽど困ったわよ。だから、おあいこね?」

「……あ、うん」

 返事があってすぐ、電話口からかすかに笑う気配がした。

「ねぇ。会えない、かしら?」

 意を決して尋ねる。白石刀哉は少しのあいだ無言になり、おくれて「え」とつぶやいた。

「今どこにいるの?」

「……自宅、だけど」

「うちから遠いの?」

「そうでもないよ。電車と徒歩で一時間ぐらい」
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