裏側の恋人たち

イレギュラーな恋 ⑤

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二ノ宮さんと館野先生の結婚式の日取りが決まった。
病棟はその話題で持ちきりだ。

「浜さんは勿論結婚式から出てくれますよね」

「ええっ、畏れ多いなぁ。お偉いさんばっかりじゃないの?」

グループのお嬢さまと有名医師の結婚は結婚式も披露宴も立派なものになるのだとか。
及び腰になるわたしに「すみません」と二ノ宮さんは申し訳なさそうに小さくなる。

スタッフのほとんどは結婚式の翌週末に行われるグループ内のスタッフを集めたガーデンパーティーに招待されていて、気軽に楽しめるようになっているらしい。
わたしもそっちがよかったけれど、先輩ナースとしては仕方がない。

「謹んで出席させて頂きます」そう言うと二ノ宮さんは心底ホッとしたという顔をした。



結婚式当日、
病院長、看護部長、消化器内科部長、副部長、科長、に囲まれた席が用意されていて、うん、料理は美味しかったけどそこそこの緊張感も味わいましたよ。

他のテーブルは大学教授がゴロゴロいたし、企業の社長やら地元の名士とか、政治家、ドクター、弁護士、なんと有名女優や新進気鋭の画家さんまで・・・・・・。
何の集まりだよ、これ。ってメンバーだった。さすが二ノ宮さんと館野先生の結婚式だ。
はあ。


無事に披露宴を終え、会場のホテルを出たところで背後から声を掛けられた。

「浜さん、お疲れさま。疲れた顔してるけど、大丈夫?」

「ああ、福岡先生、お疲れさまです」

式場ではタキシード姿だった先生も着替えてラフな格好だ。
引き出物もタキシードも持っておらず、結婚式帰りには見えない。

そういうわたしも着ていたきれいめワンピースからにシンプルなワンピースに着替え、引き出物も持っていないから似たようなものだけど。
ただ、わたしは会場内に飾られていたお花を頂いたので花束を持っている。

「荷物がない結婚式って楽だね」
「そうですね。引き出物だけじゃなくてまさか着ていたものをクリーニングして自宅に送ってくれるだなんて思ってもみませんでした」

引き出物はカタログというわけではなく自宅配送してもらえるので重たい荷物を持つこともなく楽ちんだ。
クリーニングもサービスらしいし。さすが太っ腹。

「あのメンツじゃ食べた気がしないんじゃない?」

「ええ、さすがにどこに入ったのかーーー」

披露宴の最中もふたば台の病院長からいろいろな人を紹介され緊張しながらたくさん挨拶をしたりして、たかが挨拶されど挨拶。えらく疲れた。

二ノ宮総合病院の病院長から数えて5人くらいまでは覚えていたけれど、それ以降はもうちんぷんかんぷん。そもそも人の顔を覚えるのは得意じゃないし。

本部の上層部や大学の関係者、医療機器メーカーなど紹介されたのがほとんどがおじさまたちで途中からみんな同じ顔に見えたのは本当にごめんなさい。数人いた女性陣のお顔はちゃんと覚えられました。

どうしてあんなにたくさんの人を紹介されたのか理解に苦しむけれど、ふたば台の病院長には見合いを断わる件でもお世話になっているし腹をくくって素直に従った。

別のテーブルには千秋がいて、彼女と話をしたかったのだけれど、彼女の広報部という立場は披露宴のこれも一種の仕事のようなものだったらしく忙しそうにしていたから「またゆっくり時間作ろうね」なんて話すだけでいっぱいだったのは仕方ない。
式が終わってもまだ用事があるらしいし後日時間を作ってもらおう。


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