裏側の恋人たち

響の場合 ④ 過去と現在

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突然鳴ったスマホの音に身体がビクリと反応する。
この着信音は病院からだ。
夜勤明け、次の出勤は明日の深夜のはずなのにーーーなにかあった?ミスはしていないと思うけど。

寝ていても職場からの電話の音に素早く反応し手探りでベッドサイドに置いていたスマホを手に取った。

「はい、佐脇です」

『もしもし、外来主任の岩本です。夜勤明けで休んでるところ悪いんだけどーーー』

電話の相手が外来主任の岩本さんと聞いてぴんとくるものがない。
何かわたしと接点あっただろうかーーーないよね?

『急患で受診した患者さんが入院になるんだけど、その方がね佐脇さんの・・・・・・佐脇さんが入院時の身元保証人だってって言ってるの。事情があって自分からは連絡できないから病院からあなたに連絡して欲しいだなんてそんな話ちょっとおかしいと思って。カルテ見たら以前もうちの病院に入院しているのよね。もしかしてストーカーだったら警察に相談するけれどーーー鳥越さんって佐脇さんのお知り合いで間違いない?』

え?
急患が入院でわたしが身元保証人でーーー主任はストーカーを疑っててーーー?鳥越ってーーー

瑞紀!!!

「し、知り合いですっ。すみませんっ。知り合いですっ!急患って、あの、入院って重症なんですか」

一気に目が覚めた。
瑞紀が病院に運ばれて入院になるっていったい何があったのか。

『知り合いなのね、よかったわ。職場で倒れたってことで運ばれてきたんだけど、過労だったみたい。倒れたときに頭を打ってたってことで検査したけどおそらくそちらは大丈夫。ただ血液検査がね。貧血だし、肝機能もよくないし、炎症反応もあるみたいだから念のため入院して検査しましょうって話よ。今からエコーとレントゲンの予定だから急いで来なくて大丈夫だけど、入院手続きとかお願いできるかしら。夜勤明けで大変なら無理しないでね。スタッフなんだしこちらは明日でもいいわよ」

「行きます、大丈夫です」
すぐさま返事をして出掛ける支度をはじめる。

主任の口調ではたいしたことないって感じだったけど過労で倒れるって普通じゃあない。しかも頭を打ったとか血液検査の結果が悪いとか。

結婚前のくせに何してんのよ。

もう瑞紀に関わるのは止めようと思ったけれど、うちの病院に入院したのなら手続きくらいしてもーーーなんて考える自分は弱い。
全て婚約者に任せてしまえばいいのだろうけど、瑞紀がわたしを指名してきたってことは婚約者に頼れない事情があるのか、ただ単に病院関係者だからか。


ーーーーとにかく、これで最後だから。



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