裏側の恋人たち

響の場合 ⑥ 土佐犬

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「というわけで、入籍します」

「マジですか。はあー。根性で堕としたんですね。尊敬します」

勤務後、愛菜を誘ってお洒落居酒屋へと繰り出し入籍前に報告した。

愛菜は私と瑞紀が再会したときのことを知っている。入院中にアプローチしてたことももちろんだけど。

「付き合おうって言われずにプロポーズですか。再会したのっていつでしたっけ。去年?そろそろ2年とかですよね。よくめげずに頑張りましたねぇ。私には真似できませんよ」

愛菜がケラケラと笑いながらレモンサワーを飲み干す。

「まあ最近はそこそこいろいろあったけど、最終的に落ち着いたってことで」

「ああ、佐脇さん、あの僻地出張前後ちょっとおかしかったですもんねー。だったらまとまってよかったです。もう平気ってことでいいんですよね?」

「その節はご心配とご迷惑おかけしました」

素直にぺこりと頭を下げた。
急な出張も愛菜という後輩が勤務調整をしてくれたから出来たことだったのだ。

「私はいいんですけど。独身だし、今は恋人はいないし。私の方も困ったときに勤務交代してもらって助かってますし」

そこはお互い様なわけだけど。やっぱりあの時勤務調整が出来たのは愛菜のおかげだ。

「今夜は奢る。何でもどんどん注文して」

「ここって鳥越さんのお店ですか?私、遠慮はしませんよ?」

「瑞紀のお店じゃないけど、もちろんどんとこいよ。」

「あれ、そうなんだ、違うんですね」

そう、ここは瑞紀のお店ではない。
瑞紀関係のお店なんかに行ったら、壁に耳あり・・・って調子で私がのびのびとおしゃべりを楽しむことが出来ないからわざと違うお店を選んだのだ。しかも勤務先の病院からも離れた場所にもした。

「今夜は楽しみましょ」

瑞紀も仕事の用事で今夜は遅いらしいから私も羽を伸ばすつもりでいる。

「さあ、もっと注文して」

メニューを愛菜に押しつけて私もカシスウーロンをごくごくと飲み込んだ。

『リンフレスカンテ』のマユミさんに教えてもらったお店だけれど、料理はどれも美味しいし、大当たりだ。
料理もアルコールも進み次第にお互い口の方も軽くなっていく。

「今の彼はどんな人なの?」
「彼じゃなくて食事をする関係ってとこですね。ベンチャー企業の副社長。といっても社員は3人らしいです」
「3人って言っても社員数イコール売り上げ金額じゃないから、そこはアレよね。人間性は大丈夫なのよね?遊ばれてないよね?」

自分は知らない世界だけど、愛菜の人間関係は幅広い。
今度のお相手もどこで知り合ったのかわからない。

「食事するだけですから、身体の付き合いはないし大丈夫ですよ」

「そうなの?」

そうは言われても何だか心配。
パーティーで知り合った館野先生の後輩ドクターのことは速攻で食べたって言ってたような気がする。


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