裏側の恋人たち
イレギュラーな恋 ①
浜ふみか 32才独身。
ふたば台病院消化器外科ナース。
自分で言うのもなんだけど、ベテランだ。
好きなものは甘いものと居酒屋メシ。それとフルーツ。
苦手なものは自意識過剰な人と香水臭い男。
アルコールに強いので、酔わせてお持ち帰りを狙う男は必ず返り討ちにしてやることにしている。
地方都市出身者でひとり暮らし中。
結婚願望はなく現在ペット可の分譲マンションを探している。
最近、眼科医の福岡先生によく会う。
なぜか遭遇率が高い。
私の夜勤と先生の当直日が重なるのは偶然だとしても、休日にランチをとるカフェや買い物に行く近所のスーパーで会うということは私が住むマンションの近くに先生の住まいがあるのだろう。
消化器外科の私と眼科医の福岡先生の接点は普通であればほぼない。
それなのに見かけたら挨拶程度の会話をするようになったのは私の後輩のせいだ。
二ノ宮水音。
このふたば台病院を経営する二ノ宮家の娘であり私が指導する後輩ナースだ。
超お嬢さまであるにも拘わらず至って普通の女の子。むしろ素直で扱いやすく勉強熱心。
威張るでもなく顔もかわいらしい。
新人の時に彼女の教育担当になったのが私だったのだ。
その彼女が婚約をしたらしい。
お相手は館野先生という大学から内科に派遣されて来ている非常勤のドクターだ。
考えてみると、福岡先生の姿をうちの病棟でよく見かけるようになったのは彼女の婚約の噂が出た頃だと思う。
うちは消化器外科の病棟ではあるけれど、中には眼科の疾患を併発している患者さんもいるから眼科医が出入りすることが特段おかしなことではない。
でも、夜勤の時に当直の福岡先生が度々お菓子の差し入れに来てくれるのは普通のことではないと思う。
まさか、水ちゃんのことが好きなんだろうか。
初めの頃は政略結婚なんて噂も出たけれど、実際二人の姿を目にしたらすぐにわかる。アレは絶対に普通に両思いの恋愛関係だと。
そこに割り込むのは無理だと思う。
館野先生は水ちゃんへの溺愛を隠さないし、水ちゃんも隠しているみたいだけど、いつも館野先生の姿を目で追っててベタ惚れって感じ。
それに、外見もーーー福岡先生には本当に申し訳ないけど、差があるのだ。
館野先生は好みか好みじゃないかということを抜きにして、イケメンなのだ。
天は二物を与えないんじゃなかったの?って思ってしまう。文句なしのイケメン。
対する福岡先生はーーーたぶんいい人枠。
身体の大きなクマちゃんって感じ。
年齢はよく知らないけど、たぶん35くらい?
優しそうなお顔と大きな身体。お腹は出てないと思うけど、いつもロングコートの白衣姿でスクラブを着ているところは見たことがないからよくわからない。
彼女と夜勤をしているとちょくちょく福岡先生が顔を出すのだ。
お菓子を差し入れてくれるきっかけは水ちゃんが私たちの夜勤中のコーヒーブレイクにたまたま顔を出した福岡先生を誘ったからだった。
わざわざ医局に戻って焼き菓子の詰め合わせを持ってきたくれた。
まるで宝石箱のようなお菓子たち。
頂き物だと言っていたけれど、さすがドクターは頂き物もレベルが違うと思った。