あのねあのね、
どこか少し様子が変だと感じながら、私は二人の会話が聞こえるくらいまで近づいていく。
「仁──お金、貸してくれない?」
「……いいかげんにしろ…………」
その女性に返事をする夕凪くんの声は、明らかにくぐもっていた。
下を向いているせいか、前髪のせいか、表情があまり見えない。ただ、彼の様子がおかしいことだけはわかる。
「お願い。もう頼れるの、仁しかいないのよ……っ…あの人は私を精神患者扱いするし、一華だって私のことを助けてもくれない」
(もしかして、夕凪くんの、お母さん……?)
「だから、仁がお母さんを助けて?ねえ?お金が必要なの……いいでしょう?」
「さわん、な……っ」
夕凪くんは腕を振り払うようにしてお母さんから後ずさった。