あのねあのね、
救いの存在 side仁
思い出したくないことが山ほどある。
なのにこの母親は、俺の気も知らずに簡単に金をくれと訴えた。
やめろ……近づくな────
言葉や状況が記憶を呼び覚まし、俺を頑なに縛り付けようとする。
小学生の頃。一華と家に帰ると、知らない男の声に縋りつくような甘えた声が聞こえた。
自分の家にいる淫らな格好をした男女。最初は何が起きたかわからず、その光景をただ見ていた。
一華が俺の手を引っ張って家を飛び出すと、泣きながら自分の母親を恥じる。変えられない運命に絶望する。
そこで俺はやっと気づいた。あれは自分の母の姿だったんだと……
それから俺は、母や自分に好意を向ける女に対しても、全員拒否反応が出るようになった。
女の武器を使われると気持ち悪さに耐えられない。
どんな顔をしていても母親に見えてしまう。